銭湯生活を始めた女性が遭遇した「事件」他者との付き合いで大切なもの

便利なものがたくさんあって豊かな時代になったように思いますが、それでも生きていくことに関してどうしても不安は拭いきれません。それは、コロナ禍の中でますます大きくなっていっているのではないでしょうか。
ここでは、コロナ禍によって収入がなくなった女性が遭遇した「事件」から気づいた大切なことを紹介します。

他者との付き合いで大切なものとは

買わない生活から気づくもの

稲垣えみ子さんは、アフロヘアーがトレンドマークの元朝日新聞記者。2016年に会社を早期退職し、現在はフリーさんサーとして働いています。『寂しい生活』や『魂の退社 会社を辞めるということ』などの本も出版し、主に講演によって収入を得ていました。

ところが、コロナ禍の影響により講演がことごとく中止となり、収入がほぼゼロになってしまいました。そこで稲垣さんは、これをきっかけに「買わない生活」に挑戦することにしました。

ものはできるだけ買わないようにする。例えば、服は必要最低限しか持たない。10枚なら10枚と決めて、それ以上は増やさない。着なくなったものは売って、入れ替えで新しい服(とは言っても古着ですが)を買う。

それだけにとどまらず、頭や身体を洗うときはお湯につけたタオルでこするだけで十分だということで、シャンプーやボディソープを買うのをやめたとか。

さらには、食事に関して、野草をとって食べるようになったといいます。タンポポやヨモギなど、都会に住んでいても手に入る野草がいっぱいあって、私たちは無料のごちそうに囲まれていると言います。

そしていよいよ稲垣さんは、収納のないワンルームのマンションへ引っ越します。そして、「街が我が家」と作戦を立てて、新しい生活を始めました。

例えば本を読みたければ、すぐ近所の古本屋へ向かう。つまり、古本屋さんを自分の本土名のようにして活用するのです。服がほしければ近くの古着屋さんへ行き、安く手に入れる。反対に持っているもので不要なものはそのお店で売る。こうすることで、古着屋さんをクローゼットの代わりのようにつかうことができて、結果的にものを持たない生活を実現することができるのです。

それはまるで、街自体が我が家のようです。わざわざ自分で物を買わなくても、ちょっと家から出て行くことでいろいろなものと出会うことができるのです。

コロナ禍をきっかけに始まった「買わない生活」は、今までとは違うものの見方をすることができて、買わないことに楽しさを見いだしていきました。

銭湯で起こった「事件」

「街が我が家」作戦の一つとして、銭湯があります。稲垣さんの家から徒歩3分の所に銭湯があるのですが、彼女はこれを「豪華な温泉旅館」と表現しています。

旅先で温泉旅館へ宿泊をしたとき、部屋に大浴場がついていることはほぼありません。タオルや着替えを持って大浴場まで歩いて行かなければいけません。

歩いて3分の銭湯は、まさにそのようです。自宅では入ることのできないような大きなお風呂に、たった3分で行くことができるのです。実はとても贅沢なことなのではないでしょうか。

ところが、銭湯通いを始めた途端に「事件」が起きたのです。

 

初めてその銭湯に向かった稲垣さん。中へ入ると「私、銭湯慣れてるんで」という感じで揚々と入っていきました。

身体を洗い、湯船につかっていると、突然

「あなた、お風呂の中で顔を洗わないで!汚いじゃない!」

と見知らぬ女性が言ってきたのです。

顔を洗うとはいっても、手でひとなでしたくらいで、石けんをつかうわけでもなく化生をしていたわけでもない。自分ではなにも怒られるようなことはしていないはずなのに・・・

そのことがあってから稲垣さんは、その女性と顔を合わせたくないがために時間をずらして銭湯に向かうのですが、会いたくないひととは不思議とよく合ってしまうもの。そこで場所を変えて少し遠いところの銭湯へ足を伸ばしてみると、なんとそこにもその女性がいたのです。

女性を通して見えてきたもの

こうなると、これは積極的にその女性と向かい合わなければいけない。

そう思って、その次に会ったとき「こんにちは」と挨拶をすると、向こうからも「こんにちは」と返事が帰ってきました。これを機に、少しはわだかまりも解けたようで、すると周りの様子も少しずつ見えてくるようになりました。

稲垣さんが銭湯の様子を見ていると、来ている人の多くは常連さんです。そして、彼女を叱りつけた女性もその常連さんの一人なのですが、よく見ているとわかることがありました。

実はその女性、かなりの世話好きのようなのです。他の常連さんにもあちこちに声をかけて、時には背中を流してあげたりもしています。みんな中が良さそうで、お互いがうれしそうにしています。

そこで稲垣さんは気がつきました。

私が女性に怒られたのは、顔を洗ったのが原因じゃない。「街が我が家」と作戦を立てて、銭湯も「マイ風呂」と考えて、そのためにまわりになめられてはいけないと必要以上に頭を高くしていたのが原因だったのだと。

他者との付き合いで大切なもの

稲垣さんの銭湯での失敗は、他者との信頼関係を全く考えず、自分の欲の趣くままに銭湯の世界に飛び込んでいったことです。

この銭湯は我が家の大浴場だ、と我が物顔でいたところが、気づかないところでいろんな行動に出てしまったのでしょう。それが「顔を洗った」ことをきっかけに怒られるという結果に至ったのです。

 

私たちが一人で生きていくことができないのは言うまでもなく、誰もが知っていることです。しかし、他者とうまく付き合っていくことは、なかなか難しいものです。

どうすればいいでしょうか。

稲垣さんは、まずは相手に敬意をはらうべきだといいます。

服を買うにしても本を買うにしても、食事をするにしても、家に住むにしても、銭湯に行くにしても、絶対に誰かとどこかの段階で関わりを持たなければいけません。そうなったとき、是が非でも自分の思い通りに進めたいと思って、わがままを通すような振る舞いをしてしまうと、怒られたりイヤな思いをすることになるのです。

「おれが」の我を捨てる

おれが おれがの 我を捨てて

おかげ おかげの 下で暮らせ

「我(が)」は執着であり、苦しみを生み出す原因となります。

「おれが」「わたしが」と、自分がしたいことを優先させ、周りの人の様子を見ることなく行動すれば、他者を傷つけ、自分を苦しめることになります。

どこへ行っても誰か他者とのつながりがあることを忘れずに、相手に対して敬意を持って接することを心がけましょう。

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