よく噛んで食べる

よく噛んで食べる

最近、食事の時には、よく噛んで食べるようにしています。

きっかけは些細なことです。

家族で食事をしていると、いつも私がいちばんに食事を終えるのです。

そして、他のみんなが食べ終わるまで待つのです。

今までそれが当たり前だったので、周りの人が食べているところを見ながら待つことは何とも思っていませんでした。

それがあるとき、ふと、みんなのペースに合わせて食べてみようと思ったのであります。

周りのペースにあわせると、必然的に食べ物を噛む回数が増えます。

結果的に、よくかんで食事をするようになったというだけなのであります。

子どもの頃から、ご飯はよくかんで食べるようにと言われてきました。

早食いをすることは体にはあまりよくないそうです。

胃に負担がかかり、消化吸収によくありません。血糖値が上がり、糖尿病などの病気のリスクも高くなります。肥満の原因にもなるようです。

反対に、よくかんでゆっくり食べることで、食べたものが消化されやすくなり、また満腹中枢も刺激されてご飯の食べ過ぎを押さえることができるといわれています。

確かに、一食に食べる食事のご飯の量が少し減ったように思います。

今までは、食後にはなんだかお腹にご飯がたぷたぷとたまっているような感覚がありましたが、それもなく体の調子はすっきりとした感覚になります。

きっと効率よく食べたものを消化しているのでありましょう。

そろそろ食事の食べ方にも気をつけなければいけない年になってきたのであります。

よく噛んで食べるようになってから一番驚いたのが、食べ物の味がよくわかるということです。

大根、タマネギ、にんじん、白菜、ご飯、味噌汁、お茶・・・

噛めば噛むほど、食べ物の味がじわじわとゆっくり口の中にしみ出してきます。

食べ物の味、噛んでいるときの食感、そして喉を食べ物が通っていく感覚、そういったものが細かく感じられるのです。

野菜とはこんなに味がしっかりしていたのか、ご飯はこんなに甘かったのか、と、今までと同じものを食べているはずなのに、まるで違うものを食べているような、そんな感覚を覚えるのであります。

思えば、修行時代に、食事に関してたくさんのことを教わりました。

今になって、そのときの教えの一つ一つが身に染みるように感じてきます。

食事の時に必ず唱える偈文がありますが、その中に「五観」というものがあります。

一には功の多少を計り彼の来処を量る

二には己が徳行の全欠多減を

三には心を防ぎ過を顕すに三毒に過ぎず

四には正に良薬を事として形苦を済󠄀うことを取る

五には道業を成ぜんが為に世報は意にあらず

「五観」

ひとつには、この食事がどこからどのようにもたらされ、どれほどの人の苦労がかかっているか考えなさい。

ふたつには、果たして自分は、この食事をいただくにあたいするほどの徳を積んでいるか考えなさい。

みっつには、おししい、あるいはおいしくないなど気持ちは三毒の煩悩から表れたものなので、味に執着しないように心を抑えなさい。

よっつには、食事は、体を養い命を保っていくための薬であり、肉体の苦境を救うためにあると心得なさい。

いつつには、ただひたすらに仏道を成就するための食事であるので、世間の名誉や地位などとは関係のないことである。

この五つの事柄をよく理解して、食事をいただくようにと教わるのであります。

「おいしい」という感情は、実は煩悩からあらわれたものだと聞いたときには、大変驚いたものです。

味わって食べれば、何でもおいしく食べれるようになるんだとどこかで聞いたことがあったので、納得するまでには少し時間がかかりました。

どういうことかというと、ご飯でも野菜でもお肉でも、どんな食べ物でもそれ自体にはおいしいもおいしくないもないのである。

ただそこには、そういう味があるに過ぎないということです。

例えば同じカレーを食べて、ある人はこれを辛いと言い、ある人はこれを甘いと言います。

辛いか甘いかの違いは、カレーそのものにあるのではなく、食べた人の受け取り方に違いがあるのです。

おいしい、おいしくないも、同じであります。

食べた人がおいしいと受け取るか、おいしくないと受け取るかの違いであり、食べ物そのものにはおいしいもおいしくないもなく、ただそこに味があるだけだということなのです。

そして当時の先生からは、

「おいしいと感じることも大切だけど、おいしいとかおいしくないという自分の感情を離れて、食べ物の味をそのまま味わうことが大切なのだ」

と言われました。そして、

「仏教の教えも、わかったつもりにならないように、ことばの一つ一つをしっかりかみしめて、味わって、飲み込むようにして学びなさい」

と教わったのであります。

いま、そのときに学んだことをじっくりと味わっているのであります。

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