梅は三毒を断つ
和歌山の名産品のひとつとしてあげられるものに、梅があります。
和歌山県南部地域は黒潮の影響をうけて、1年を通じて気温の変化が少なく、温暖で雨量が多く日照時間も長いことから、梅の栽培に適しているといわれてます。
全国の梅の収穫量のうち、その6割が和歌山県産であります。
なかでも「南高梅」は最高級の品質を誇ります。
皮が薄く、種が小さく、果実が柔らかいのが、この南高梅の特徴です。
現在、和歌山県で生産されている梅のほとんどが、この南高梅であるといわれています。
毎年6月になりますと、友人からとれたての青梅を送っていただいています。
これを梅干しにしたり、氷砂糖につけて梅シロップにしたりと、自分で加工するのが毎年の楽しみになっております。
はじめは青い梅の実ですが、日に日に黄色く色づいてきます。
色づくにつれて、とてもいい香りが漂います。
どうやら梅は、スモモやアンズなどの果実の仲間になるそうです。
なるほど、どうりでフルーツのような甘い香りがするわけであります。
梅は、完熟になる手前で加工を始めます。
まず、青梅を水で洗い、爪楊枝でへたを取ります。
簡単にへたがとれますが、梅を傷つけないように細心の注意を払います。
ひと箱十キロで、だいたい300個の梅が入っていますが、一粒残らずにへたを取っていきます。
面倒と言えば面倒ですが、これがやり出すとなかなか面白いもので、何も考えずに夢中になって黙々と作業に没頭しているのであります。
全部の梅のへたを取り終えると、いよいよ塩に漬けていきます。
あらかじめ樽はホワイトリカーで消毒をしておきます。
さらに、直接樽に入れるのではなく、ゴミ袋のような大きな袋を用意して樽の中にセットし、その中に梅を入れていきます。
こうすることで隙間を埋めることができるので、塩が梅全体にまんべんなく行き渡ることができるのです。
もちろん、袋の中にも一度ホワイトリカーを入れて消毒しておきます。
一手間かかりますが、こうしておくことでカビが生えてくることを予防することができるのであります。
ここまでしておいて、ようやく、塩、梅、塩、梅と、交互に樽にセットした袋の中に入れていくのです。
あとは重石をしておくと、3日から5日ほどで梅酢が上がってきます。
きちんと梅酢に漬かっていなければ、そこからカビが生えることがあるので、時々様子を見てあげなければいけません。
そしてひと月ほど漬けたあと、梅雨が明けて尚且つ3日間晴れが続く日を見計らって、天日干しにします。
これで一応は完成でありますが、今すぐに食べたいい気持ちをグッと抑えて、さらに2,3ヶ月寝かしてやります。
こうすることで、味がまろやかに仕上がるのであります。
自分で世話をして作り上げたことによって、そこに愛着がわくのでしょうか。
こうして自分の手で漬けた梅干しは格別であります。
どこにも負けない梅干しができたと、毎年自画自賛しております。
昔から梅には「三毒を断つ」といわれるほど、身体にいいものといわれています。
三毒とは「水毒」「食毒」「血毒」のことです。
水毒は、身体の水分の汚れのことであり、梅によって余計なものを排出してくれるそうです。
食毒は、暴飲暴食や不規則な食事のことで、梅を食べることによって身体の栄養素のバランスを取ってくれるといわれています。
血毒は、血の汚れのことで、血液をさらさらにしてきれいにする効果があるといわれています。
梅は昔から伝わる健康食品なのであります。
仏教で三毒というと「貪欲」「瞋恚」「愚痴」の煩悩のことで、貪り、いかり、おろかさであります。
この三毒の煩悩によって、罪を作り、悩み、迷い、苦しんでいるのが私たちであります。
法然上人は
「我らごとき煩悩をも断ぜず罪悪をも造れる凡夫なりとも、深く弥陀の本願を信じて念仏すれば十声一声に至るまで決定して往生する」
として、煩悩を取り除くことができない人であっても、阿弥陀仏の本願を信じて念仏すれば、極楽浄土に往生すると説いています。
三毒を断つことができなくても、この身このまま、仏の力によって救われることができるのであります。
この喜びを生きる力に変え、お念仏に励むのであります。
梅干しによって身体の三毒をたつことができても、煩悩という三毒を断つことができない私たちは、阿弥陀仏の本願にすがるしかないのであります。