母親の涙の成分は?見えないものを感じる力

現代は科学が目覚ましく進歩し、これまで謎に包まれていた多くのことが解き明かされるようになりました。そのおかげで、私たちの生活は豊かで便利なものになりました。

しかし、その一方で、「科学で証明できないものは信じられない」という考え方が広まっているようにも感じられます。目に見えるものだけを信じ、目に見えないものを軽んじてしまう風潮です。

これにまつわる、興味深いお話があります。

「電磁気学の父」として知られるイギリスの偉大な科学者、マイケル・ファラデーが、ある日の授業で学生たちに一本の試験管を見せました。

「この中に何が入っていると思うかね?」

学生たちは不思議そうに首をひねります。ファラデーは静かに語り始めました。

「これは、ある学生のお母様の涙なのだよ。先日、その方が私の研究室を訪ねてこられ、息子の将来を案じて涙を流された。その涙を、こうして集めたのだ。」

そして、彼は学生たちにこう問いかけました。

「諸君、この涙を科学的に分析すれば、成分が何パーセントの水分と塩分でできているかは、すぐに分かるだろう。しかし、この涙に含まれているものは、本当にそれだけだろうか?」

ファラデーは続けました。

「いや、違う。この一滴の涙には、科学では決して分析できないものが含まれている。息子を深く想う母親の苦悩と、見返りを求めない尊い愛情だ。科学は素晴らしい学問だが、物事のすべてを解き明かせるわけではない。そのことを、決して忘れてはならない。

最も大切なのは、澄み切った心、温かい思いやりの心だ。そうした心の目でみることを忘れてしまったら、人として大切なことを見失ってしまう。優れた専門家である前に、まず血の通った、温かい心を持つ人間であってほしい。」

目に見えないけど、人間が人間として生きていくために大切にしなければいけないもの。それが「心」です。

相手は今、何を考え、何を感じているのだろうか。試験管の涙を見て、その持ち主がどれほど深く悩み、悲しんだのかを想像する力。それが、私たち人間にとって不可欠な心ではないでしょうか。