おいしいおと
三宮麻由子さんの絵本で、「おいしいおと」という絵本があります。
2歳3歳向けのかんたんな絵本なのですが、その内容はとても面白いものなのであります。
タイトルは『おいしいおと』
食べ物を食べたときの音が書かれていますが、さて、皆さんはどんな音を想像するでしょうか?
例えば、春巻き。
パクパク、
パリパリ、
モグモグ・・・
人それぞれ違った音を思い浮かべることでありましょう。
「おいしいおと」の絵本の中では、このように出てきます。
はるまきたべよう
カコッ ホッ カル カル カル カル カル
あぁ おいしい
おいしい おと (幼児絵本ふしぎなたねシリーズ) [ 三宮麻由子 ]
初めてこの絵本を見たとき、衝撃を受けました。
はるまきを食べて、カルカルカルという音を聞いたことがなかったからです。
他にも、ほうれん草やごはんを食べる音が出てきますが、中でも私が一番特徴的だと思ったのが、わかめを食べる音であります。
わかめをたべよう
ピララルッ リョリュ リョリュ リョリュ リョリュ
あぁ おいしい
おいしい おと (幼児絵本ふしぎなたねシリーズ) [ 三宮麻由子 ]
このわかめとは、味噌汁に入っているわかめなのでありますが、なんとも不思議な音であります。
あまりに気になったので、わかめを食べると本当にこのような音がするのか試してみることにしました。
三宮さんは、この音は体の中の音であると語っておられるので、体の中に意識を向けて聞いてみることにしました。
確かに、リョリュ、リョリュ、リョリュに近いような音が聞こえます。
とても不思議な体験をしたのでありました。
作者の三宮麻由子さんは、全盲で目が見えず、4歳の時に光を失ったそうです。
目が見えなくなったという精神的なショックもあって、子どもの頃は食事をあまりとることができず、病気がちだったそうです。
いっぱい食べて大きくなろうと言われるのがイヤで、食事の時間は特に苦痛だった、おいしいと思ったことは、数えるほどしかなかったと、語っております。
だから、食べるのが苦手な子が、音で遊んでいるうちに食べてしまうことができる、そんな本にしたいと思って書いたのが、この「おいしいおと」という絵本なのだそうであります。
この絵本に限らず、三宮さんの絵本に出てくる音は、とても味わい深いものがあります。
例えば「でんしゃはうたう」では、電車は「たたっつつっつつ」と走ります。
私たちが思う「ガタンゴトン」ではないのです。
しかし、よく聞いてみると、ガタンゴトンよりも、「たたっつつっつつ」のほうが近いように思います。
三宮さんの絵本を見ていると、いかに私たちは先入観を持ってものごとを見ているのかということに気づかされます。
いろいろなことを学んで成長していくうちに、いつしか、ごはんを食べる音は「パクパク」や「もぐもぐ」であり、電車の音は「ガタンゴトン」であると決めつけてしまっているのであります。
この絵本を読んでいて、子どもの頃にニワトリの鳴き声の話で衝撃を受けたことを思い出しました。
学校のある授業でのことです。
クラスのだれもが、ニワトリの鳴き声といえば「コケコッコー」であると言いました。
しかし、先生は、アメリカなどの外国では、ニワトリの鳴き声は「クックドゥードゥルドゥー」だと言ったのです。
はじめは、日本のニワトリとアメリカのニワトリでは、鳴き方が違うのかと思いました。
しかし、そういうことではありません。
同じ鳴き声を、日本では「コケコッコー」と表現し、アメリカでは「クックドゥードゥルドゥー」と表現するのです。
私たちは聞こえている音を、理解しやすくするためにあえて言葉や文字であらわしているにすぎないのです。
ニワトリの鳴き声にあっては、「コケコッコー」や「クックドゥードゥルドゥー」という言葉を離れたところに、本当の音があるのだと、その授業では教わったのであります。
仏教には「諸法実相」という言葉があります。
この世のものごとのすべてはありのままの姿であるという意味であります。
この世のありのままの姿を知ることが、悟りを得ることにつながるのであります。
「コケコッコー」や「 クックドゥードゥルドゥー 」にとらわれない、ありのままのニワトリの声を聴くことが大切なのであります。
三宮さんは、
みんなが雑音だと思っている音をどれだけ拾えるかが私にとって勝負になります。これからも、子どもも大人も「真っ白い耳」で楽しめる絵本を書いていきたいです。
好書好日
と語っています。
「真っ白い耳」とは、先入観から離れた音を聞くことです。
先入観を離れたところに、本当の、ありのままの姿の音が聞こえてくるのでありましょう。
この言葉を借りて、「真っ白い心」で、ものごとを見て、聞いて、感じ取っていくようにしたいものであります。