シロクマのことは考えないでください
アメリカの心理学者であるダニエル・ウェグナーが行った実験に、面白いものがあります。
1987年、ダニエル・ウェグナーは実験の参加者にシロクマの映像を見せました。
その際、参加者を3グループに分けて、それぞれ次のように伝えました。
Aグループの参加者には「シロクマのことを覚えておくよう」伝える
Bグループの参加者には「シロクマのことを考えても考えなくても良い」と伝える
Cグループの参加者には「シロクマのことだけは絶対に考えないでください」と伝える
そして、期間をおいてから参加者にどこのくらい覚えているかを調査しました。
さて、最もシロクマのことを覚えていたのはどのグループだったでしょうか。
実はCグループが最も鮮明に覚えていたという結果がでたのです。
考えるなと言われれば言われるほど考えてしまう、このような理論のことを「皮肉過程理論」というそうです。
考えるなと言われた人ほど記憶に残るという、確かに皮肉な現象がおこっているのです。
思い返せば、日常的にもよくあることではないでしょうか。
例えば、ダイエットをしている人が「食べ物を食べてはいけない」と思えば思うほど食べたくなってしまったり、仕事でイヤなことがあって忘れたいと思えば思うほど忘れられなくなったりとか。
きっとこれが人間の本性なのかもしれません。
お釈迦様は、あらゆる悪から離れることに成功しました。
言い換えれば、「やってはいけないことはやらない」ということができるのです。
やってはいけないことのことを「戒」といいますが、仏教ではお釈迦様の教えのすべては戒を説いているともいわれます。
やってはいけないことをやらないことで、人として勝れた人格を形成していくことを教えているのです。
しかし、次から次へとやってはいけないことをやるのが人間です。
お釈迦様はその都度、それはやってはいけないことだと教えられました。
結果として、膨大な数のお経が成立していったのです。
見よと言われりゃ見たがらず
見るなといえば、なお見たい
するなと言えばしたくなり
せよと言われりゃ嫌になる
天の邪鬼ではないけれど
素直になれば敗けたよに
思う心のひねくれを
どうすることも出きぬ我
『凡夫のこころ』の一節です。
そんな私を極楽浄土へと救いとってくださるのが阿弥陀仏です。
やるなと言われることをやらないように努力することは、当然大切なことです。
しかしその前に、「やるなと言われてもやってしまう愚かな自分」であることの自覚を持たなければいけません。
自分の力でどうすることもできない愚かな自分は、ただただ阿弥陀仏の力にすがるしかないのです。
そこに他力という本当の救いの姿が見えてくるのだと思います。